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言語学習へのいざない

[2020.06.24]

今回のトピックは語学学習です。日本では外国語といえばほぼ英語の一択となっています。私は英語以外にもドイツ留学のためにドイツ語を勉強しましたが、中国語や韓国語など英語以外の言語を勉強されている方も多いかと思います。私は英語もドイツもそれなりには話せますが、自分ではいつも下手だと思っています。ただ、話すのは下手であっても外国の方と会話するにあたり、不利になるとは全く思っていません。ここでは私の語学学習に対する考えを綴りたいと思います。

英語学習のきっかけ

私は幼少時から母の方針でその当時としては割と早く英語を勉強し始め、実際中高生の時はそれなりに英語が得意でした。NHKラジオ講座が好きで「基礎英語」から始め、大学受験生の頃はリスニング対策を兼ねて杉田敏先生の「ビジネス英語」の講座を毎日聞いておりました。そのお陰で受験本番前には夢の中の会話で英語が聞こえてくるようになりました。ここまでは良かったのですが、大学時代にほとんど英語を勉強しなくなったために、英語が途端に不得意になってしまいました。アメリカのマイアミに留学している先輩を同級生と訪ねた時も、英語が話せる友人をよそに、私は英語が全く話せずに恥ずかしい思いをした記憶を今でも鮮明に覚えています。医師になってもそれは同じで、英語とは全くかけ離れた生活を送っていたために30歳ぐらいまでは英語を話すことはありませんでした。
この悲惨な状況が変わったのは、初期研修を終えて大学に戻り、その当時の教授であった河瀬教授の指導を受けてからです。河瀬教授の元には世界中から留学生が訪れており、彼らと会話をしたくて必死で下手くそな英語で話しかけました。また河瀬教授からテーマを与えられて英文論文を書くことになり、たくさんの英文論文を読み漁り、自分でも英文論文を書きました。その後はこのテーマを国際学会で発表するために、英語でのプレゼンテーションを何回も練習して実践に臨みました。河瀬教授には「市村君の英語は下手だ」とよくダメ出しをされていたために、語学教室に通い始めたのもこの頃です。

オンラインレッスンの登場

30歳を過ぎてから語学学校に通い始め、受験勉強で英語を勉強していたためかそれなりには話せるようになりました。そんなときに出合ったのがちょうど世に出始めたオンラインレッスンです。語学学校は仕事の傍らで週一回程度しか通学できませんが、オンラインでは通学時間がかからずに自宅で毎日でも何時でもレッスンを受けることが出来ます。英語人口が第三位であるフィリピンの学校だと、語学学校に通うよりも低コストです。私はオンラインレッスンに出会ってからほぼ毎日30分フィリピンの先生と英語で話すようになりました。オンラインレッスンはそれまでの語学学習を劇的に変え、そのお陰で英語が上達したと思っています。

ドイツ語学習の難しさ

私は38歳の時に日独交換留学生に選考され、ドイツに留学することが決まってからドイツ語学習を始めました。まさかドイツに留学するなどと想像していなかったのと、大学でもフランス語選択であったために、ドイツ語を勉強したことがそれまで全くありませんでした。いざドイツ語を勉強しようと思っても日本では英語ほどいい環境にありません。とりあえずNHKラジオ講座を聞いて基本を学んだあとに、東京・赤坂にあるゲーテ・インスティトゥート東京(Goethe Institut Japan)に半年間週末に通いました。東部病院で勤務していた時なので、仕事をしながら通学するのは本当に大変でした。

日本でのドイツ語学習の聖地
ゲーテ・インスティトゥート東京
(Goethe Institut Japan)

またインターネットでポーランド人のドイツ語講師と知り合い、オンラインレッスンを受講するようになりました。その他にもRosetta StoneやDuolingoといったアプリを活用しました。ドイツに移ってからは引き続きベルリンのゲーテ・インスティトゥートに3か月間毎日通いました。30代後半で語学学校生になるのはなかなか面白い経験でした。そこでは様々な国から来たドイツで夢を追う若者と知り合い、今までにない刺激を受けました。

3ヶ月通ったベルリンのゲーテ・インスティトゥート

その後にはCEFR B2レベル(英検でいうと準1級~1級程度)のドイツ語のテストに合格し、ドイツの医師免許を取得することになりました。ドイツ医師免許取得後はハノーファーのInternational Neuroscience Insitituteに移り、手術チームの一員として勤務しましたが、ここではスタッフとの会話は基本的にすべてドイツ語でしたので大変でした。しかし、仕事とは関係ない世間話をすることで仲良くなれることも事実でした。最終的にはドイツ語、英語、日本語の3か国語で物事を常に考えられるようになり、むしろ日本語が咄嗟に出てこなく漢字を見るとその情報量の多さに頭がパンクしそうになりました。また夢の中でも3か国語を話すようになっていました。

B2レベル合格証明書

ドイツ語を学んで・・・

そもそも英語はドイツ語と近縁な関係にある言語なので、英語の表現をドイツ語に置き換えながらある程度話すことが出来ます。それまでは英語は難しい言葉だと考えていましたが、文法や文法的性や複雑な格変化を考えると、実は英語は他の言語と比べて意外に難しくない言葉だと正直思いました。ドイツ語を教わっていたポーランド人の先生によると、ポーランド語は世界で一番複雑な言語の1つらしく、ドイツ語の比にならないともよく言っていました。おそらく日本語も外国の方からすると難しい言葉に感じると思います。

日本では英語を通じて英米の音楽、映画、文学といったカルチャーを外国の文化として学ぶケースが多いですが、その他の言語圏にも当然のように独自の文化があり、言葉を学ぶことを通じてその外国の文化を学ぶことになります。私もドイツ語学習を通じて、ドイツ語圏であるドイツ、オーストリア、スイスの文化を学びました。英語以外の言葉を学ぶというのはこのような楽しみもあります。

国際共通語としての英語

ドイツのオペ室で面白い経験をしました。そのオペ室にはドイツ人医師とフランスやイタリアから来た見学者、そして我々日本人留学生がいましたが、誰一人として英語のネイティブスピーカーがいない状況で意思疎通の共通語として使っていたのが英語です。各々の話す英語は何となくその出身の訛りがあるし、果たして本当に正しい英語で話しているか誰もわかりません。確かに2020年1月の英国のEU離脱(ブレグジット)を機に、EU(狭義の意味でのヨーロッパ)から英語を母国語とする国はなくなりました。しかし、その後もコミュニケーションをとる共通語して英語は使用されています。これには昔の大英帝国の植民地が多かったとか、現在のアメリカの影響力が強いとか様々な理由があると思いますが、ドイツ語やフランス語と比べると英語は複雑でなく勉強しやすいことがあると個人的には考えています。日本人にとっても第一外国語はまずは英語しかないと思います。アメリカやイギリスのように英語が母国語の国では、流量な英語を話すことが求められる一方で、ヨーロッパでは間違いを気にせずに英語をより気楽に話せる環境であると思います。

シャリテ・ベルリン医科大学 (Charité – Universitätsmedizin Berlin)のオペ室にて
友人になったオランダからの見学生と同僚の日本人留学生と

マルチリンガルが当たり前のヨーロッパ

日本人だと第一外国語だけで英語を話せるとそれだけで十分ですが、様々な言語を有するヨーロッパでは母国語と英語以外にも数か国語を話せるのが普通です。例えばベルギーではEUの本部があるのと、フランス、ドイツ、オランダに囲まれているので3か国語どころか4-5か国語くらい話すマルチリンガルが普通のようです。観光地に行っても案内人が5-6か国語で観光客に説明をしていたのにはびっくりしました。ヨーロッパの言葉は近縁関係にあるので、日本人がヨーロッパの言語を学ぶのとは状況は異なりますが、ヨーロッパ人の言語に対する興味は日本人よりもはるかに大きいです。これは島国国家である日本と大陸国家の集合であるEUとの環境の差だと思われます。

水の都、ベルギーのブリュージュ
運河のクルージングでは1人のガイドが5か国語で説明していました

科学の言語、英語

自ら英文論文を書くようになってから、英語の“ある特徴”を意識するようになりました。それは物事をズバッとダイレクトに表現できるということです。微細な表現が得意な日本語とは真逆だと思います。私は日本語でも論文を書く機会がありますが、意外と英語で書くよりも難しいといつも感じます。思い返すと、ダ・ヴィンチ・コードで有名なダン・ブラウンの著書、「天使と悪魔」でも17世紀ルネッサンス期において英語はカソリック(宗教)と相反する“純粋な言語(リングア・プーラ)”、自由思想家の言葉として紹介されています。18-19世紀の近代医学の学術論文は英語以外にもドイツ語やフランス語で書かれていたようですが、現代では科学論文に用いられる言語はほぼ英語のみです。英語が事実上の国際的な共通語であることがその大きな理由でありますが、端的に物事を伝えられる英語の特性が科学論文と非常に相性が良かったのではないかと私は考えています。

目標がないと学習しない

人間は悲しいことに、何か目標がないとそれに向かって努力できない生き物だと思います。私の場合は、英語は「世界に発信できる脳神経外科医になりたい」で、ドイツ語は「ドイツで医師として臨床経験を積みたい」という明確な目標があったために、それに向かって努力することができました。おそらく漫然と英語に興味があるとか、ドイツに行ってみたいとかくらいの目標では学習するモチベーションを維持するのは大変だと思います。

ジャパニーズイングリッシュで何が悪い!

今までにRとLの発音の違いとかを一生懸命練習しましたが、結局私が話すのは典型的なジャパニーズイングリッシュです。しかし、最近はジャパニーズイングリッシュで何が悪い!と開き直っています。なぜかというと私は日本人脳神経外科医であって、イギリス人でもアメリカ人でもなければ英文学の専門家でもないからです。思い返せば国際学会でもインド人や中国人が訛りの強い英語で堂々とプレゼンテーションをしていました。私は英語の専門家ではないので、重要なのは英語のうまさではなく英語を通じて話す内容だと考えています。さらに日本人は外国語に弱いという世界的な共通認識があるので、日本人が下手でも堂々と英語を話すとそれだけで語学に長けた日本人だと認識されます。さらにもう一か国語を話せるものなら、相当に驚かれます。私もドイツ留学時代にドイツ語と英語を両方話していたら相当に驚かれました。ある意味、日本人というだけでハードルが低くなるので、その点を逆手に利用していました。

お酒が入ると流暢に話すようになる!?

お酒が入ると饒舌になるのは誰しもが経験したことがあると思いますが、アルコールの少量摂取に、最近学習した外国語の発音を向上させる効果がある可能性を示した報告がオランダから出ました。私も留学中にヨーロッパ中を旅していた時に、地元のレストランやバーにふらっと入っては地元の人々と酒を酌み交わしながら交流を深めていました。ドイツでは日本人がドイツ語を話すというだけで親近感を覚えるようで、さらに私のお酒が入るといつも以上にドイツ語が流暢になったために、より親しく交流することができました。大量飲酒は体に悪いですが、少量飲酒は語学学習にも役立ちそうです。

出典論文

語学学習≒筋トレ、脳トレ?

ここまで偉そうなことを述べてきましたが、ドイツ語から帰国後以降はドイツ語を使う機会はほぼないので、現在ではだいぶ忘れてきています。また英語は毎日オンラインレッスンで勉強してきましたが、今年の4月に当クリニックに異動してからは日々の忙しさにかまけて英語を勉強できておりません。先日スコットランドの友人とスカイプを使い英語で会話をしたのですが、単語がなかなか出てこなくてショックを受け、語学学習は筋トレのように持続的に続けていかなくてはならない事を痛感しています。40を過ぎてくると脳の機能は誰でも低下し、また英語をこれから上達させるのは難しいので、脳を活性化させるためのボケ防止の脳トレとして英語を勉強するのも意義があると思っています。今後は英語学習を続けながら、再度ドイツ語を学びなおしたいと思いますし、さらにはイタリア語やスペイン語も機会があれば触れてみたいと思っています。

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