不整脈
心配のいらない一時的なものから
突然死を招くような危険なものまで―
脈の乱れがみられる場合には詳細な検査・分析が必要です。
心臓内部は上下左右4つの部屋に分かれています。上半分を「心房」、下半分は「心室」と呼ばれます。心房と心室では通常1対1のリズムで脈が打たれており、心房がバックアップをとりながら心室から全身へと血液が送り出されてゆきます。本来であればその一定のリズムであるべきものが崩れたり飛んでしまったり、脈と脈の間隔が不規則になってしまうことを不整脈と呼びます。
ご自身では気づくことが難しい不整脈
単に脈が乱れる程度では何か特別な違和感や症状を感じ取ることはできません。そのため異変になかなか気づけないまま長く放置されるケースが大変多いです。不整脈の程度がひどくなれば以下のような症状が徐々に現れるようになります。ただし、感じる痛みや違和感も非常に短時間で治まってしまうため、ご本人としては軽く見過ごしがちとなります。定期的な検査確認を加えることが早期発見のためには有効です。
進行することで感じやすくなる症状
- 脈が飛ぶ感じがする
- 脈が極端に速い
- 脈が極端に遅い
- めまいがする
- 体を動かすと息切れがするようになる
- 平常時でもドキドキと動悸がする
- 冷や汗が吐き気がする
- 意識が一瞬遠のくような感じがする
- きゅっとした胸の痛みを感じる など
脈が遅くなると頭部にまで血が行き渡りにくくなるため、突然の失神を起こすこともあります。その際、頭痛が起こらないことが不整脈の特徴です。
実は怖い不整脈
不整脈による症状の中でも警戒すべきは急に意識を失うように倒れる失神です。一時的に心臓が停止状態になってしまっているか、もしくは1分間に100回以上もの極端な頻脈が起きている可能性が考えられます。また、強い息切れや突然の激しい動悸を感じる場合にも心不全を起こしかけている可能性が考えられます。いずれにしても、そのような異常を感じられた場合にはすみやかに当院までお越しいただき、詳しい検査を加えることが重要となります。
最も怖いのは心房細動が引き起こす「心不全」と「全身への血栓のバラマキ」
脈と脈のリズムが一定でなくなると、心房部分ではバックアップを取るための電気信号が正常に送れなくなり、プルプルと細かく震えてしまう異常が起こります。この現象は「心房細動」と呼ばれており、このエラーによって心室から送り出される血液量は通常の7~8割程度にまで低下します。その結果、心不全を引き起こしやすくなるうえに、さらには細かく震えることによって心臓内に血液の塊(血栓)を作りやすくなってしまいます。それが何かの拍子に砕けて全身のさまざまな場所に運ばれてゆきます。血栓は大きいものほど血管内で詰まりを起こしやすく、それが脳内で起きれば脳梗塞を生じさせる原因となります。半身麻痺や失語症などといった生活の質(QOL)を大きく下げるような深刻な後遺症をもたらす可能性が高まります。心房細動は80歳以上の方であれば全体の10%以上にものぼる方が抱えていると推定されています。心房細動は24時間のモニタリングができるホルター心電図を用いた検査を行えば見つけ出すことが可能です。初期の段階では発作的に出たり消えたりを繰り返すのが特徴ですが、それが長く続くようになると持続性へと進行します。初期の段階ですでに苦しさや違和感と感じられる方もいらっしゃれば、まったく無症状の方もいらっしゃいます。健康診断の際に不整脈を初めて指摘されて、驚かれる患者さんも後を絶ちません。特別な症状がみられなくても、年に一度の健康診断の機会を有効に活用いただき、異常の早期発見に努めていただきたいと切に願います。
治療について
一般的に治療法については、飲み薬を用いて改善を図る方法と、入院治療によって不整脈の根治を目指す方法の2種があります。
飲み薬によって改善を図る治療法
脳梗塞などの重大な危険を回避するために、まずは予防的に血液をサラサラにするための薬を服用する必要があります。特に症状がみられない場合でも、心臓を保護するための薬(心保護剤)を服用して警戒します。すでに何らかのお辛い症状がみられる患者さんに対しては、不整脈を防ぐ薬の服用が必要となります。長期間にわたっての薬の服用が不可欠となります。
入院治療によって根治を目指す治療法
長期にわたる薬の服用を避けたい場合には、カテーテルアブレーション(RFCA)と呼ばれる治療法を行うことが効果的です。まずは不整脈のきっかけとなっている場所を特定し、大腿静脈(または動脈)を通じて心臓にカテーテルを挿入します。心臓内に電極を入れ、原因となる部分を焼くか冷凍凝固して直接治療します。心房細動のはじまりは肺静脈で生じるケースが多いとされています。
心房細動は詳しい分析を加えなければなかなか見つけることが難しい病気のひとつです。長期にわたって心房細動が起き続けていたような患者さんの治療については手術成績も低下する傾向にあるため、何よりも早期発見・早期治療が鉄則となります。
不整脈の発生にも生活習慣病が深く関係しています
不整脈は80歳以上の方であれば10%以上の方がそれにあたるといわれるほど、高齢化社会に伴って増加傾向にある病気です。若い世代の方々においても、健康診断のタイミングで不整脈が指摘されることがしばしばあります。その背景には生活習慣病が影響しています。早い段階から食事内容や生活スタイルに気を配るように注意し、肥満を予防しておくことはとても重要なことです。異常が指摘されれば早期にアブレーション治療を施すなど、ご自身の末永い健康を守りきるためにはひとつの大事な選択肢となりえます。
近年では不整脈を見つけ出すアプリも登場しています
不整脈という言葉をもっと幅広い世代の方々に知っていただくことを目的に、昨今では不整脈を見つけるアプリも登場しています。「いきなり病院に行くのは何となく敷居が高い」とお悩みの方などは、まずはご自分で気軽に試してみることも良いアプローチとなるでしょう。ただし疑わしい結果や症状がみられる場合には、早期に当院までお越しいただき、詳細な検査・分析をお受けください。
自覚症状がなくても
60歳を過ぎたら年に一度は定期検診をお受けください
心臓に過度な負荷を強いるのは圧力の異常です。不整脈や高血圧、動脈硬化などはその最たるものです。いずれも放置すれば悪化の一途を辿ります。不整脈は無症状であることが多く、症状を感じ始めても瞬間的な軽度なものとして捉えやすくなってしまうため注意が必要です。何十年にもわたって心房細動を生じ、ひどい状態となって初めて診察室にいらっしゃるような患者さんも実際の診療現場においては珍しくありません。自覚症状がなくても、60歳を過ぎたら年に一度は心電図の詳しい検査を含む定期検査を受けられることを推奨いたします。