冬の気温低下・乾燥と脳卒中
冬は脳卒中の季節です
最近では地球温暖化により、夏の猛暑が引き起こす熱中症による脳梗塞が起こるようになってきましたが、本来は気温が下がる冬が脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳卒中が起こりやすいシーズンです。
脳神経外科医の出番が多くなる季節と言えます。
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることによって、脳が障害を受ける病気です。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管の障害に生じる病気を総称して脳卒中といいます。脳の血管が詰まって血流が悪くなって生じる病気が脳梗塞であり、逆に脳の血管が破れて生じるのが脳出血やくも膜下出血です。
気温が下がると脳卒中が増える
脳卒中は冬に多く、その要因として冬の寒さが挙げられます。
気温が下がると、体から熱を逃がさないために体内の血管が収縮して血圧が上昇し、血管が破れやすくなるためです。一方、夏場は著明に減少する傾向があります。
血管が破れて生じる脳出血やくも膜下出血は高血圧と密接な関連があるために、冬に多い病気です。
室温が4℃下がると脳卒中死亡の危険が5%増える、温が大きく低下した4日後に脳内出血の発症頻度が増加するといった報告もあります。
高血圧と冬の脳卒中
脳卒中の最大の原因は、高血圧です。冬に血圧が上がると脳卒中のリスクがさらに高まります。
高血圧の患者さんでは、夏と冬の血圧差が10mmHg程度あることが多いです。
中には20-30mmHg程度変化することもあり、家庭で測定された血圧の変化をみながら薬を調節することも数多くあります。
朝の起床後の血圧が135/85mmHgを超える場合、脳卒中のリスクが高くなることが報告されていますので、高血圧の患者さんは朝の血圧測定を心がけてきちんと薬を内服してください。
冬の乾燥による脱水と脳梗塞
冬は気温が下がることで空気中の水蒸気量が減り、空気が乾燥しやすくなります。
空気が乾燥しているとより多くの水分が皮膚からの蒸発により体の外に出ていきます。湿度が低く、乾燥する冬はこの水分蒸発が進むため、より体の水分が失われやすい傾向にあります。
体の水分が減ると血液中に含まれる成分の割合が高くなるため脱水となり、血液はドロドロとした濃い状態になって血液がうまく流れなくなり、脳梗塞が起こりやすくなります。
暖房の使用で屋外より湿度が10~20%低くなる室内では、さらに水分は失われやすくなります。住宅の気密性向上により、外気を取り込んで加湿する機会も減っています。
また、暑い夏に比べると喉の渇きを感じにくいため、水分を積極的にとらない人も多くなります。
特に気を付けたいのはトイレが近くなることを気にして水分を控える高齢者です。
意識的に水分を摂取することを心がけましょう。
加湿器で、皮膚などからの水分の蒸発を抑えるのも有効です。
冬の脳卒中対策
冬の脳卒中を予防するためには、食事や適度な運動、禁煙、節酒等に留意するほか、なるべく暖かい環境で過ごすことが大切です。
屋外ではコートや帽子、マフラー、手袋などで防寒し、冷たい空気を吸わないようマスクをつけましょう。
屋内では冷え込みやすい脱衣所やトイレ等は暖め、急な温度変化を避けてください。
10℃以上の温度差がある場所は、ヒートショックのリスクが上がるという報告もあるため、特に入浴に注意が必要です。
熱過ぎるお風呂は避け、ぬるめのお風呂に入りましょう。お風呂に入る前と入った後、寝る前と起床後は水分を摂りましょう。
暖かい環境とは言っても、コタツや電気毛布を使っていつの間にか汗をかき、脱水になっている事があります。脱水になれば脳梗塞をおこしやすくなります。 入浴前後や就寝前に、十分な水分を摂るよう心がけて下さい。
冬はお酒を飲む機会が増えます。大量のアルコールは血圧を上げるほか、脱水症状を起こしやすいのでほどほどにしましょう。