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ヤンドク!の手術を脳外科医療指導医が解説
⑫未破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術(第10話)

[2026.03.19]

はじめに

今回の手術は開頭クリッピング術という脳神経外科を最も象徴する手術です。

今までの知識、経験、そして脳神経外科医としてのプライドをかけて全力を持って今回のクリッピングの手術指導監修をしました。

この手術を見事に演じきってくれた中田先生と湖音波先生、ここまで素晴らしく手術を演出してくれた製作陣には感謝しきれません。

何回見直しても私には本物の手術にしか見えませんでした。

この手術シーンはヤンドク!の脳外科医療指導としての集大成になったと思います。

この仕事を引き受けて本当に良かったと心から思えました。

是非ともこの手術シーンはたくさんの人に見て頂きたいです。

 

未破裂脳動脈瘤とは?

脳の血管の一部が、風船のように膨らんでしまった状態を脳動脈瘤と呼びます。
そのうち、まだ破れていないものを未破裂脳動脈瘤と言います。
原因は血管の壁がもともと弱かったり、高血圧や喫煙などのストレスが長年かかったりすることで、血管の分岐点などが膨らみます。
ほとんどの場合、自覚症状はありません。 人間ドックの脳MRI検査(脳ドック)などで偶然発見されることが大半です。

未破裂脳動脈瘤が最も恐れられているのは、破裂するとくも膜下出血を引き起こすからです。

くも膜下出血は命に関わる重篤な病気であり、後遺症のリスクも高いため、慎重な経過観察や治療が必要になります。

しかし、すべての瘤が破裂するわけではありません。

一般的に、日本人の未破裂脳動脈瘤が1年間で破裂する確率は、平均して0.5%〜1%程度と言われています。

これは100人の患者様がいた場合、1年間で1人が破裂するという計算になります。
意外に低いと感じられるかもしれませんが、この確率は瘤の大きさ、場所、形状によって大きく変動します。

未破裂脳動脈瘤の好発部位

内頚動脈(ICA)

首から脳内へ入ってくる最も太い血管です。特に、目や脳の深部へ向かう細い枝が分かれる付け根(後交通動脈分岐部など)に多く見られます。この場所の瘤が大きくなると、近くを通る神経を圧迫してまぶたが下がる、物が二重に見えるといった症状(動眼神経麻痺)が出ることがあります。

今回の手術はこの場所で、内頚動脈後交通動脈分岐部(通称 IC-PC(アイシー・ピーシー)動脈瘤と呼ばれる場所の脳動脈瘤です。


中大脳動脈(MCA)

脳の横側(側頭葉など)に向かって大きく枝分かれする血管です。脳ドックなどで最も頻繁に発見される部位の一つで、血管が二股に分かれる「分岐部」によく発生します。比較的、開頭手術(クリッピング術)でアプローチしやすい場所でもあります。

前交通動脈(ACoA)

左右の脳をつなぐ、脳の前方深部にある非常に細い血管です。日本人のデータでは、この場所にできた瘤は他の部位に比べて、比較的小さなサイズ(5mm未満など)であっても破裂のリスクが相対的に高いことが示唆されており、慎重な検討が必要な部位です。

脳底動脈先端部(BA top)

脳の後ろ側(小脳や脳幹)へ血液を送る血管の終点です。ここが破裂すると、生命維持に直結する脳幹のすぐそばで出血が起こるため、非常に重篤な状態になりやすい傾向があります。治療には高度な技術を要する場合が多い部位です。

椎骨動脈(VA)

首の後ろ側を通って脳へ入る血管です。通常の袋状の瘤だけでなく、血管の壁が裂けて剥がれる解離性(かいりせい)脳動脈瘤が発生しやすい場所としても知られています。

破裂のリスクが高いケース

日本脳神経外科学会のガイドラインや大規模な疫学調査(UCAS Japanなど)により、以下の場合はリスクが高まるとされています。

  1. 大きさ: 5〜7mm以上のもの。

  2. 形: いびつな形をしているもの(ブレブと呼ばれる小さな突起があるなど)。

  3. 場所: 前交通動脈や内頚動脈—後交通動脈分岐部など。

  4. 経過: 経過観察中に大きくなってきているもの。

内頚動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)脳動脈瘤

脳に酸素を送るメインの太い血管である内頚動脈から、脳の後方へ向かう後交通動脈が枝分かれする根元にできる脳動脈瘤のです。

  • 発生頻度: 脳動脈瘤のなかでも非常に頻度が高く、中大脳動脈瘤と並んでよく見つかる部位です。

  • 特徴: この場所のすぐそばには、目を動かすための動眼神経という重要な神経が走っています。

 

特有の症状の動眼神経麻痺に注意

未破裂脳動脈瘤は通常、自覚症状がありません。しかし、IC-PC動脈瘤が大きくなると、隣接する動眼神経を圧迫し、破裂のサインとして以下の症状が出ることがあります。

  • まぶたが急に下がってくる(眼瞼下垂)

  • 物が二重に見える(複視)

  • 瞳孔(黒目)が散大する

もし未破裂の診断を受けている方で、これらの症状が急に出現した場合は、切迫破裂(今にも破裂しそうな状態)の可能性があり、救急受診が必要な緊急事態です。

破裂のリスク

日本人の大規模調査(UCAS Japan)によれば、IC-PC動脈瘤は、中大脳動脈などの他の部位に比べて破裂率が相対的に高いことが報告されています。

  • 場所によるリスク: 同じ5mmの大きさでも、他の一般的な部位より破裂しやすいハイリスクとみなされます。

  • 大きさ: 5mm未満であっても、この部位にある場合は、年齢や全身状態を考慮して積極的に治療が検討されるケースが多いです。

治療の選択肢

IC-PC動脈瘤は、その形状や向きによって、以下の2つの治療法のどちらも検討可能です。

① 開頭クリッピング術

頭蓋骨を開け、顕微鏡下で瘤の根元を金属クリップで挟む手術です。

  • メリット: 歴史が長く、再発率が極めて低い確実な方法です。

  • デメリット: 頭を開けるため、体への負担(侵襲)が大きくなります。

② カテーテル治療(コイル塞栓術)

足の付け根の血管から細い管(カテーテル)を入れ、瘤の中にプラチナ製のコイルを詰める治療です。

  • メリット: 頭を切らないため、回復が早く入院期間も短縮できます。

  • デメリット: 瘤の形(入り口が広いなど)によっては、コイルが安定しにくい場合があります。

開頭クリッピング術

今回は脳動脈瘤を確実に処理するために開頭クリッピング術を施行しました。

脳動脈瘤の治療において、古くから行われ、現在も最も信頼性の高い標準的な治療法です。

顕微鏡を用いた精密な手術であり、再発率が極めて低いことが最大の特徴です。

脳神経外科の一番花形の手術と言えます。

中田先生が術者、湖音波先生が助手で執刀されました。

 

 

手術は顕微鏡を覗きながらミリ単位の作業を行います。

 

 

前頭葉と側頭葉の間にあるシルビウス裂という隙間の膜をマイクロはさみとバイポーラにて切開していき、脳動脈瘤を目指します。

 

中田先生は手術の名手なので、脳を圧排するへら(脳ベラ)を使わず、左手の吸引で脳をリトラクト(圧排)して操作しながらシルビウス裂を切開していきます。

脳動脈瘤に到達したら、周囲の膜を剥離切開し脳動脈瘤を出します。

脳動脈瘤のネック(頚部)をきれいに剥離して、クリップをかける準備をします。

脳動脈瘤のネックを確保しクリップをかけようと試みます。

助手の湖音波先生が左手を添えて、目の見えていない中田先生のサポートをします。

無事にクリップがかかりました。

湖音波先生は中田先生の目が見えていないことに気づいてしまいました。


中田部長、湖音波両先生の手術後の気持ちを思うと切なくなりました。

 

【参考文献】

  • 日本脳神経外科学会:脳ドックで見つかった未破裂脳動脈瘤の治療方針

  • UCAS Japan(日本未破裂脳動脈瘤死亡率調査)の成果報告

  • 『脳卒中治療ガイドライン 2021』日本脳卒中学会 編

 

執筆者情報

日本とドイツの医師免許を持つ脳神経外科医

市村 真也(いちむら しんや)

【保有資格・所属学会】

  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本脳卒中学会専門医
  • 脊椎脊髄外科専門医
  • 日本脊髄外科学会認定医
  • 日本がん治療認定医
  • 日本神経内視鏡学会技術認定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • ドイツ医師資格
  • ドイツ脳神経外科学会正会員
  • ヨーロッパ脳神経外科学会正会員

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