股関節の症状(痛み・歩きづらい)
股関節について
股関節は、大腿骨(ももの骨)と骨盤をつなぐ関節であり、人間の体で最も大きな関節の1つで、体重を支え、歩行や捻り動作動作を可能にする重要な役割を果たしています。
股関節は、以下の要素で構成されています。
大腿骨頭: 大腿骨の上端は頭部と呼ばれ、球状をしています。この頭部が骨盤の臼蓋の中に収まって股関節を形成します。
臼蓋(股関節の屋根の部分): 骨盤の側部にあるくぼみであり、大腿骨の頭部が収まる場所です。臼蓋は軟骨で覆われており、滑らかな動きを可能にします。
この他に、関節唇・関節包・靭帯といった軟部組織が周囲に付着し、股関節の安定性・可動性に寄与しています。
骨の破綻や、軟部組織の障害などにより、主に痛み症状が生じます。典型的な股関節疾患について述べていきます。
大腿骨近位部骨折:転倒後に痛い(高齢者に多い)
変形性股関節症:歩く際に足の付け根が痛む、股関節の痛みで歩きづらい
大腿骨寛骨臼衝突症候群(FAI):立ち上がりや階段、捻り動作で股関節が痛む
股関節唇損傷:軽微な外傷後に股関節の違和感、痛みがある
大腿骨頭壊死症:ステロイド治療歴のある方や飲酒の多い方で、立ち上がる時や歩行時に股関節が痛い
単純性股関節炎:子供が怪我をしていないのに足を痛がる、歩きたがらない
先天性股関節脱臼:乳児の股関節が開きづらい
ペルテス病:誘引なく股関節・膝痛(男児 5~8歳)
大腿骨頭すべり症:誘引なく股関節・膝痛(男児 思春期)
大腿骨近位部骨折
転倒を契機に発症することがほとんどで、高齢者に多い骨折です。ご高齢の方は骨粗鬆症がベースにあり、骨が脆弱になっているため少し転んだり脚を捻っただけでも折れることがあります。痛みで歩くことが困難になります。ほとんどの場合が手術適応です。当院は入院が可能な有床診療所のため、この骨折があればそのまま入院していただき、早期手術が可能な提携施設に転送の手続きをさせていただきます。他に転倒を契機に骨盤骨折(恥坐骨骨折)が起こる場合もありますが、こちらは手術せずに骨の自然癒合を待ちます。
変形性股関節症
加齢、または臼蓋形成不全(骨盤側の屋根が浅い)などの構造異常が原因で臼蓋・大腿骨頭の変形が起こり、骨内部や関節の炎症が生じて痛みで歩くことが困難になります。可動域制限も出るので、足の爪切りが難しくなったり、階段の昇り降りも難しくなります。リハビリを中心とした保存療法を行えば日常生活動作の低下の予防はできます。股関節にかかる負荷は体重の3~10倍のため、食事制限や運動療法を行い体重コントロールを行ったり、痛みを避けるような生活の工夫が大切です。しかし保存療法の効果がなく、生活のレベルアップを求める場合は手術療法(人工股関節置換術など)を考慮します。
大腿骨寛骨臼衝突症候群(FAI:Femoroacetabular impingiment)
股関節の大腿骨と、骨盤(臼蓋)の骨形態状の相性が悪く、繰り返しの衝突(インピンジメント)を起こし、股関節の疼痛と運動制限をきたす病態のことです。慢性的な衝突により股関節唇や軟骨、軟部組織損傷が起こることももあります。動かすことにより股関節の痛みが誘発されます。主にX線と身体所見から診断します。8割程度の患者様は保存治療(リハビリ・エコー下股関節注射)により症状が改善します。MRIで股関節唇損傷や軟骨損傷があり、保存療法で鎮痛効果が見られない場合は、内視鏡手術の適応になる事があるので、専門施設へご紹介いたします。
股関節唇損傷
股関節唇は臼蓋(股関節の屋根側)の周囲をぐるっと取り囲む柔らかい軟骨で、リング状のゴムパッキンのように大腿骨頭を包み込んでいます。大腿骨頭を安定化させ、衝撃を吸収する役割を担っています。関節唇損傷が生じると骨頭が安定しなくなり、次第に軟骨が破壊され、軟骨がすり減って変形性股関節症になってしまうと考えられています。また、股関節唇自体にも神経が存在するため、股関節唇損傷単独でも痛みが生じます。
MRIと身体所見から診断をつけますが、診断に難渋することも多くあります。診断の大きな助けになるのが股関節注射です。当院ではエコー下に細い針を使用し股関節内へ安全で確実に注射をしています。注射後に速やかに痛みが改善すれば、痛みの原因は股関節唇損傷であると判断します。
前述のFAI同様に保存療法で痛みを避けるような生活動作を習得し、周囲の筋肉を鍛えることで8割程度の患者様がよくなりますが、痛みの改善が乏しい場合は内視鏡手術の適応がありますので、専門施設へご紹介いたします。
大腿骨頭壊死症
大腿骨頭の血流が阻害されて栄養不良になり、壊死に陥り痛みを生じる状態を言います。細かい原因は未だ不明で、厚生労働省が定める指定難病の1つです。アルコールを大量に飲む方、大量なステロイドの使用歴がある方に多いとされています。身体所見・MRIから診断をつけます。一度壊死した部分は基本的に自然軽快することはなく、壊死の範囲程度が広く・痛み症状がひどい場合は手術の適応となります。
単純性股関節炎
小児の股関節痛の中で最も頻度の高い疾患です。明確に痛みを訴える方ばかりでなく、急に歩かなくなった・歩きたがらないという状態で来られる方も多いです。感冒などの前駆症状を持つ事が多いことからウイルス感染に伴い反応性に関節が炎症を起こしているなど、諸説ありますが原因は不明です。感染ではないので著明な発熱はせず、あっても38度以下のことがほとんどです。身体所見、またエコーで関節内の液体貯留の左右差を確認し診断します。単純性の股関節炎であれば安静のみで数日〜1週間で症状改善が改善します。
見逃してはならない鑑別疾患として化膿性股関節炎があります。こちらは股関節内のばい菌感染なので、発熱します。採血で炎症反応の上昇を認め、また関節穿刺し関節液が膿であれば、早急に洗浄手術の適応になるので、注意が必要です。
先天性股関節脱臼
股関節が生まれながらに脱臼している、あるいは臼蓋の発育が不良で脱臼しやすい状態のことです。発見が遅れると治療が難しくなり、成人時期に股関節の機能障害へと進行します。抱き方も病状の進行に影響すると言われており、抱っこをする際にできるだけ赤ちゃんの股が開くように抱っこすると良いです。股が開きづらい、膝を曲げた時に足の長さが違う、などの身体所見が見られますが、診断に最も重要なのはエコー検査です。診断後は、装具を装着するなど、専門的な治療が必要になりますので、小児股関節の専門施設へご紹介いたします。
ペルテス病 大腿骨頭すべり症